退路を断つ力はもう残されていなかった。横綱稀勢の里のことである。あれほど相撲が好きだったのに、誰よりも相撲を愛していたのに、あんな終わり方でいいのか、土俵の神は意外と冷たいと感じる。今場所の3日間、稀勢の里の相撲は完全に崩れてしまった。劣勢になるとただジタバタするだけ。例えるなら欲しいモノを買ってもらえない幼稚園児が親にダダをこねて泣きじゃくる、というレヴェルにまで落ち込んでしまった。横綱という地位も相撲愛から遠ざけることになってしまった。最弱横綱とか言われているが、それは土俵人生17年のうちの2年だけのこと、大関までの成績も良く皆勤した15年間というのをクローズアップしてもらわないと稀勢の里に対して失礼である。しかしこれでやっと楽になれる。土俵人生は終わったが相撲人生はまだまだ続いていく。稀勢の里が親方としても横綱級になることを願って止まない。